クマタカの生態
和名:クマタカ
学名:Spizaetus nipalensis
英名:Mountain Hawk-eagle
世界の分布・日本の分布
世界の分布
クマタカは、アジアに生息するクマタカ属のうち、唯一温帯まで分布している種であり、インド南西部・東部、中国南部、タイ、台湾、日本など、アジア南部から東部にかけて生息している。
日本の分布
日本では、北海道から九州の山地の森林地帯に、留鳥として広く分布している。
生息状況
生息数は、環境省の発表では1800羽程度であるが、実際はこれ以上多いと考えられている。国のレッドデータブックでは「絶滅危惧1B類」、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」では「国内希少野生動植物種」に指定されている。
形態
成鳥
上面は暗灰褐色、下面は淡色で細かい黒斑がある。顔面は黒く目は黄色であり、頭上の羽毛は長く冠羽状になる。体長は70cm~83cm、翌開長138~169cm、体重2~3.5kgであり、雌が雄よりもやや大きい。
若鳥
上面は暗褐色、下面は淡いバフ色で、成鳥に比べて白っぽく見える。顔面も淡色部が多い。体色は、齢を重ねるごとに暗色化し、4~5年で成鳥羽になると言われる。
食性
クマタカの食性
餌として、森林から草地まで様々な環境に生息する多様な動物を捕食するが、特にノウサギ、リス、モグラなど哺乳類、ヤマドリや中型の鳥類、ヘビ類などが多い。このようなことから、クマタカは豊かな森林生態系の指標種と言われている。
生息環境
クマタカの生息環境
生息環境は、標高300m程度の低山帯から標高2000mを超える亜高山帯の森林まで幅広い。営巣地は急峻な谷の中腹が多い。採食環境は、成熟した広葉樹林内や林内空間のある針葉樹の壮齢林内、森林の中に点在する草地や伐採地と言われている 。
繁殖
求愛ディスプレイ
クマタカの繁殖期は11月ごろから始まる。3月ごろまでが求愛造巣期にあたり、営巣地近くの上空では求愛を表すディスプレイが見られる。これは並列飛行と呼ばれるディスプレイで、飛行中の雌に雄が接近し、縦や横に並んで飛行する。
クマタカの巣
巣は、モミやアカマツ、キタゴヨウなど針葉樹の大木にかけることが多いが、ブナやミズナラなど広葉樹にもかける。産卵は3月~4月で、概ね1卵の卵を産む。
巣立ち幼鳥
巣立ち時期は、7月~8月。親鳥は1~2年と長い時間をかけて幼鳥の世話を行う。このためか、クマタカの繁殖は2~3年間隔になることが多い。
行動圏
クマタカが生息していくためには約4km四方の行動圏が必要とされている。これは、 東京ディズニーランドの約30倍の広さにあたる。右の図は、那須塩原地域のあるつがいの行動圏の例。
那須野ヶ原地域におけるクマタカの分布
クマタカの高密度生息地
那須塩原地域の山地部では、クマタカの巣間距離は平均3~4km程度になる。また、この地域の特徴としては深くて長い谷地形が多いことであり、それらの地形に即してクマタカの生息が確認されている。塩那森林管理署が那須塩原地域で実施した調査では、135平方キロ内に7つがいを確認している。これは100平方キロに換算すると、5.2つがいとなり、全国的にも生息密度の高い地域である。
那須野ヶ原地域における保全上の課題
土木事業および林業との共存
土木事業および林業との共存が課題である。
土木事業としては、治山工事・安全性向上目的の道路工事・観光施設開発などが考えられる。営巣地付近で大規模な事業が実施される場合は、保全策の検討が重要となる。
林業に関しては、クマタカの餌となる多様な野生生物の生息を維持するためには、広葉樹林の保全・再生、人工林の適切な管理などが重要である。那須塩原地域の山地部の多くは、2006年4月に「日光・那須塩原 緑の回廊」に指定された。その趣旨に則った森林管理が期待される。